川のある風景

生まれ育った那覇から離れ、今帰仁村に住んで2年が経った。
東京のような都市から比べれば、那覇でも充分田舎に感じるだろうが、難読地名でも時折取り上げられる「今帰仁村」(なきじんそん)は、那覇から更に車で2時間。
美ら海水族館の先にある人口1万人にも満たない小さな村だ。

私が子供の頃…三十数年前の那覇には、それでもまだ自然が残っていた。
首里の団地に住んでいた私は学校のそばの川でグッピーやオタマジャクシやカエルを採り、裏山の木の上に秘密基地を作り、桑の実を採って食べたり、サルビアの蜜を吸った。
家への帰り道には臭い養豚場があり、豚の陰嚢に小石を当ててはオヤジに怒られ、草原に放し飼いのヤギを追いかけては、また怒られた。

そして月日は流れ、当時遊んでいた場所はことごとく開発され、道路やアパートがひしめく風景となった。
一人娘が小学1年生になるのを機に今帰仁に移り住んだのは、あの風景と日常を体験としてプレゼントしたかったからだ。
彼女が私の年齢になる頃には、今よりもっと失われているだろうから…。
夏が近づくと今帰仁に流れる大井川の上流で娘と一緒に遊ぶ。住まいから5分と離れていない。
私が学校帰りに遊んだ川よりも澄んだ川には、グッピーやオタマジャクシだけでなく、テナガエビや川エビ、モズクガニ、ソードテールといった多彩な生き物たちがいる。
ポケットからスマートフォンを取り出し、写真を撮る。ネットにアップする。3Gの無線ネットワークはこんな田舎にもしっかり届いている。
都会に住む知人友人からコメントが届く。
スマートフォンの中には都市がある。ポケットに都市が入るのだから、もう都市に住む理由はあまりないのだ。
スマホでテナガエビの料理の仕方を私が検索してる間、娘は10匹目のテナガエビを捕まえた。

今帰仁村観光協会 事務局長 又吉演