令和2年度は、浦添市立前田小学校での 2年目の取組みとなっており、3年生を対象として総合学習時間を活用して「風景学習」を実施しました。特に、今年度は、新型コロナウイルスへの感染防止対策を実施しつつ、地域の再発見に始まり、過去から未来の前田について学び考え、3年生が2年生にむけて「前田の自まんを伝える」学習が取り組まれております。
都市モノレールが延長し周辺状況が変化していく中で、前田地域の伝統やワカリジーなどの歴史資産、まちなみの今昔について目を向け、児童の自主的な学びや気づきを大切にして学校と地域コミュニティ、浦添市、NPO等が連携して取り組む風景学習のプログラムが展開されました。
児童においては「前田は自まんできるものがたくさんある」「自治会長さんや地域の人が昔から大切にしてきたものを受け継ぎたい」「住みよいまちにしたい」など、自分たちのまちとして前田地域に対する愛着や誇りが芽生えており、また、先生方や地域の方々も、児童と一緒に学習する過程で地域の魅力を再認識する機会となりました。
今後も、これまでの取り組みをモデルとして学校や地域との連携体制を深め、地域に根ざし個性に富んだ学習活動が県内の小学校へ広く普及するよう、風景学習の取組みを進めてまいります。
前田小学校(令和2年度)
たんけん!はっけん!ほっとけん」~前田の自まんを伝えよう~
学習のねらい |
- 地域を探検して古井戸やワカリジー、モノレール駅など今昔の前田の風景にふれ、見過ごしてしまいがちな地域の良さに気づかせる。
- 課題発見後の追求、協働によるまとめ、表現活動を通して、伝統の継承やまちづくりに関わる人の思いや努力を知り、今昔の風景の変化と未来の前田について主体的多面的に考えを深める。
- 発表活動を通して、各自が捉えた「前田じまん」をわかりやすい言葉で伝え、地域の一員・自分事として今後の前田のまちづくりへ生かすことを思考する。(SDGs へ)
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学習活動 |
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準備品 |
<探検学習等>
- ワークシート、カメラ(学校)
- 補助記録、マーカー(学校、NPO)
- 探検バッグ、水筒と帽子、筆記具(児童)
- 熱中症対策用のあめ玉・塩(学校)
<学習参考資料の提供(NPO、景観行政)>
- 前田の資源マップ、探検ルートマップ
- 古写真、白地図、モノレール関連資料
- 浦添市景観まちづくり、歴史文化資料
- 風景学習実施計画及び調整資料
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実施体制 |
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学習の流れ
R2/5~8月【浦添市学習】(12h)
概要 |
- 1学期/ 社会科:学校を中心に校区探検を行い、また、浦添市の地形や土地利用、交通の様子などを調べて、場所によって違いがあることや気づいたことを、グループで絵地図やパンフレットにまとめ、浦添市の特徴を紹介した。
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前田の文化と風景にふれる(12h)
【オリエンテーション等】
概要 |
- 2学期 / 総合学習 / 風景学習導入オリエンテーション:周辺開発が進む中、自分たちが住んでいる地域の伝統文化や今昔の風景に目を向けて「前田の良さを発見する」学習を始めることを児童に伝える。→「たんけん・はっけん・ほっとけん」~前田のじまんを伝えよう!~
各学級で前田について連想できることをイメージマップにし、話し合う。
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【事前学習】9/8(1h)、9/9(1h)
場所 |
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概要 |
【自治会長講話】前田の成り立ちを聞いて各自の前田のイメージを広げる。
- 実際に歩いて地域の人の話や思い、知恵に触れて、前田の良さをさらに見つけることを問いかける。“前田の地域を探検してみよう”
- 後日、前田の通りの特徴を捉えながら、小学校からの探検ルートを確認する。
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R2/9/25【まち歩き1】前田の古井戸(水辺)探検(4h)
場所 |
- 小学校 → 校庭 → 自治会館広場 → 綱引きの道 → 井戸・生活道 → 前田権現 → 井の大人川 → 小湾川 → 前田駅 → 小学校
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概要 |
- 先生の進行で、まち歩きのねらいを確認後、スタ ッフを紹介し様々な立場の人が活動に関わることを捉えさせる。
- NPOの進行で校庭前のワカリジー・グスク丘陵について問いかける。
- 自治会館へ移動して学級ごとに整列し、ガイドと配置場所を説明する。(ポイントガイド方式)
- 先生と NPOの引率で、古井戸や拝所等を訪ねて話を聞きノートに記録する。
- 井戸の今昔の使われ方、信仰、伝統と関係、小湾川への流れなど、見過ごしていた生活風景に気づかせる。
- 浦添前田駅:市職員から沿線のまちづくりへの思いを聞く。ワカリジーへの眺め、赤瓦屋根、鬼瓦など浦添グスクとの関係を知る。
- 後日の振り返りで、各自の「心に残った風景(モノ ・事)」を記録に残して、ワカリジー探検に備える。
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児童の
反応 |
- 「ここはどこかな?」の問いかけに地図でポイントを確認して友達に教えたりしていた。
- 「 東と西の綱が出会う印なんだ」「古い赤瓦と緑がきれい」「井戸水に石やクチャ(粘土)が関係するんだな~」「小湾川につながっている!」など、発見の声がいろいろとあがった。
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【振り返り】後日(1h)
場所 |
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概要 |
- 後日の振り返りで、各自の「心に残った風景(モノ ・事)」を記録に残して、ワカリジー探検に備える。
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場所 |
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概要 |
- これまでの学習を振り返り、次の学習やまちづくり活動に活かすことを考える。
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R2/10/2【まち歩き2】ワカリジー探検(4h)
場所 |
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概要 |
- ジリチン毛(前田発祥地・拝所)を訪ね、高台から前田一帯や海への眺望、新たなまちなみ・赤瓦屋根の広がりを確認する。
- 市職員(文化財課)からワカリジー保全の取組みを学ぶ。
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児童の
反応 |
- ジリチン毛(拝所)やワカリジー(巨岩)を歩いて地域の不思議を探検する。大切なシンボルだからこそ、行政の人も地域を応援して文化財として守ってきたことを学んだ。
地域の大切な風景を残すためには様々な人達の協力が必要であることを知る。
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【振り返り】後日(1h)
つかむ / 広げる(20h)
R2/10月中旬~11月【課題設定と調べ学習】(15h)
R2/10/28【中間報告】(2h)
R2/10/30【校内研究会】(1h)
場所 |
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概要 |
- まち歩きでの発見や興味関心からグループを編成し、目標や学習計画を立てる。
- 中間報告会を行い、質疑やアドバイスをし合い、調べ学習を進める。
- 今昔の写真等から、前田の風景の移り変わりや大切に残されたものを考え、前田のまちを過去・現在・未来で思考することを意識づける。
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児童の
反応 |
- 課題解決にむけて、ワカリジー、古井戸、拝所、昔の生活、歴史、まちづくり、伝統芸能などのグループができた。
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R2/11/26【インタビュー学習】(2h)
場所 |
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概要 |
- 伝統を守るための努力や地域への思い、子どもの頃の体験談などを知るために、自治会長へインタビューを行う。地域の思いを受けて自分事として前田の地域をどのようにしたいか、未来のまちづくりを考えるように促す。
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まとめる/ 伝える(23h)
R2/12〜R3/1月中旬【制作活動】(14h)
R3/1月下旬【シナリオ作成、発表準備】(4h)
R3/2/1【リハーサル】(2h)
場所 |
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概要 |
- 聞いたり調べたり考えたりしたことを絵や言葉に表現する。
- 下級生へわかりやすく伝えるために、キャラクターによる案内を設定し、伝えたいポイントを模造紙に貼り付けて演出する。
- シナリオをまとめ、わかったことやまちづくりへの思いや考えが伝わるように、発表態度に注意してリハーサルを行う。
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児童の
反応 |
- グループで輪になって話し合う姿や絵作りに夢中になる子など特技を生かして、壁新聞、大型絵本、紙芝居等にとりまとめていた。
- 20年後の前田のまちについて「ワカリジーの隣に歴史資料館もあるといい」「綱引きや棒術、井戸を大切に残す」、「便利な生活も大切」、「モノレール沿いは赤瓦のまちなみが広がっている」などの声があがっていた。
- 「なぜ、前田には田んぼが多かったのか」2年生の質問に対して「盆地で水が豊富だから」などしっかりと回答していた。
- わかりやすく堂々と発表する3年生に憧れと敬意の目で、話を聞く2年生の姿があった。
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R3/2/2【発表会】(2h)
場所 |
- 2学年教室
※3月に、学習成果を、浦添市役所ロビーで展示発信
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概要 |
- 発表会:2年生にむけて学んだことやこれからの前田のまちづくりについて考えたこと、前田じまんを継承するために自分たちができること等を発表し質問に回答する。
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振り返り(1h)
R3/2/3
場所 |
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概要 |
- これまでの活動を振り返り皆で話しあう、地域の一員として自分にできることは何か次の学習やまちづくり活動に活かすことを考える。
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児童の作品 (一部掲載)
まち歩き後の調べ学習では、伝統行事や古井戸、ワカリジー等資源が残る一方で、モノレール駅や新たなまちが形成される前田地域について課題別のグループ学習を進め、今昔の風景や生活の変化の様子を捉えたり、伝統を守る方々の努力・思いにふれたりして、各自が考える前田の魅力や今後のまちづくりについてとりまとめて発信した。
先生の声
実施にあたり苦労した点
- 児童の感染防止の徹底、地域ゲストのポイントガイドによるまち歩きの実施など、コロナ禍での感染防止対策と学習活動の両立に苦労した。
- 地域資料が少ないので調べ学習を進めるのが大変であった。コロナ禍で実現できなかったが、本来の調べ学習として、まち歩き後も児童が地域へ出たりゲストを迎えて何度か聞きとったり調べたりする過程が必要だと思った。
- 新聞記事やネット資料、文献(前田物語)が3年生には難しい部分もあり児童が必要とした部分をわかりやすい文章にして提示した。
工夫した点
- 今年の取り組みは前田地域の「昔・現在・未来」を大きな柱としたことで教師も児童も見通しを持って学習に取り組むことができた。
- 特に今昔の地域変化の中で自治会長さんをはじめ文化遺産を守るために努力されている方達の思いに焦点を当てたことで、児童自身も担い手としての思いをもって未来のまちづくりを考えることへつながったと思う。
- 国語、社会科、図工等で培ってきた力を総合学習に生かしていくという視点を与え、「2年生にわかりやすく伝える」という相手意識を持たせながら、キャラクターを作成させて児童自身も楽しく学習できるように取り組ませた。
教師として得られた点
- 教師自らも地域に出かけたこと、国語科や社会科の学習スキルも取り入れて教材づくりに励んだことが児童の楽しい学びにつながった。
- 児童と地域をつなげるために資料や書籍の熟読と整理、指導法や児童への発問や声かけ、教科間のつなげ方など教材研究することができた。
- 児童と一緒に作業する中で一人一人の良さを再発見することができたこと、何よりも時代の流れに思いを馳せ、自分自身の故郷のことも改めて考える時間が持てたことも意外な効果であった。
3年生児童の反応
- 7月のアンケートでは前田の良さは「自然が多い」「人が優しい」との意見であったが、1月のアンケートでは「自治会長さんや地域の人が昔から大切にしてきたモノを受け継ぎたい」「前田は自慢できるものがたくさんある」「みんなが住みよいまちにしたい」と地域に対しての思いが述べられた意見が多くあった。
- 自分たちが地域から大切に見守られていることを意識するようになり、未来の中心に自分たちを据えた視点で想像していく経験ができた。
- 2年生に向けた発表ではキャラクター作りや絵づくり、プレゼンテーションの組み立てを工夫するなどグループで力をあわせて大きなことを成し遂げることができたとの達成感を得られていた。
2年生児童の反応
- 先輩たちの発表を聞いて「3年生ってすごいな」「私もこんな3年生になりたい」「発表してありがとうございます」など3年生への憧れや期待が大きくなり、前田地域のことを大切にしていきたい思いもしっかり伝わって、次は自分たちの番だとの、2年生の学習意欲につながった。