令和3年度 風景学習

豊かな自然環境と固有の歴史文化から形成されてきたかつての美しい沖縄の風景は、先の大戦とその後の急速な復興、無秩序な都市化により、その多くが失われてしまいました。

こうした背景から、近年、沖縄県では本土と大きく異なる県風土の特性を再認識し、地域の魅力あふれる沖縄らしい風景を取り戻すため、まちなみ景観の形成とあわせて個性豊かな風景づくりにかかる人材育成を推進しております。

その人材育成の一環として、「沖縄まちなみミュージアム候補地区」近隣の小学校を対象に「風景学習」に取り組み、児童が住んでいる地域のまちあるき等を通して身近な風景の大切さに気づき、また、地域への愛着や誇りを育てることを目的として、平成25年度からこれまでに県内各地の8つの小学校(下表参照)において実施してまいりました。

令和3年度は、浦添市立前田小学校での3年目の取組みであり、3年生の総合学習等の時間を活用して学校が主体となり、地域、行政、NPO等が連携する風景学習のプログラムが展開されました。

都市モノレールが延長し環境が変化していく中で、まちの未来に思いを馳せ、地域の探検活動を行い、歴史文化資源や今昔の風景の魅力、新たなまちなみや人の活動など、児童の自主的な学びや気づきから「前田の自まん」について考え深めたことを、寒冷地の本土小学校へ向けて伝える学習(オンライン交流)が取り組まれました。

児童においては、「前田らしさを大事にしたい」「地域の一員として役立ちたい」、「まちをきれいにしたい」、「古くからあるものを守っていきたい」、また、先生がたや地域の大人達も、児童と一緒に学習する過程で前田地域の魅力を再認識する機会となりました。

今後も、これまでの取り組みをモデルとして学校や地域との連携体制を深め、地域に根ざし個性に富んだ学習活動が県内の小学校へ広く普及するよう、風景学習の取組みを進めてまいります。

前田小学校(令和3年度)

昔から今、未来へつなぐ前田の風景じまん

学習のねらい
  • 地域を探検して、古井戸や拝所、ワカリジー、モ ノレール駅など新旧が混在するまちの風景や、人の活動にふれ、見過ごしてしまいがちな地域の良さに気づく。
  • 調べ学習やまとめの活動を通して、今昔のまちの変化と地域の人の思いを知り、前田の魅力と未 のまちについて主体的多面的に考えを深める。
  • 自らの「前田じまん」をわかりやすい言葉で伝え、地域の一員として今後のまちづくりへ生かすことを思考する。(SDGsへ)
学習活動
  • これまでの生活科や社会科授業(浦添市のまち)に連動させ、いつまでも続くステキな前田のまちを目指して、2 学期の総合学習時間に「風景学習」を導入しまち歩きを行った。旧集落に残る古井戸や拝所、伝統文化、ワカリジーを探求し、また、新住宅地の活動を捉えて各自の調べ学習を進め、わかったことを整理し発信活動に取り組んだ。〔* NPO 参加協力/講師派遣〕

    ① 1R 3.7中旬   オリエンテーション「こんなまちになるといいな」
    ② R3.9.22     まち歩き1:ワリカジー探検(*)
    ③ R3.9.28     まち歩き2:前田探検、心に残る風景を記録(*)
    ④ R3.11.2     児童によるインタビュー活動(*)
    ⑤ R3.11.17     中間報告会
    ⑥ R3.11.29     校内研究授業(*)
    ⑦ R3.11月~ R4.2月    調べ学習(親子体験等)〜制作活動
    ⑧ R4.2.18    発表会と振り返り(*)

準備品

<探検学習等>

  • ワークシート、カメラ(学校)
  • 補助記録、マーカー(学校、NPO)
  • 探検バッグ、水筒と帽子、筆記具(児童)
  • 熱中症対策用のあめ玉・塩(学校)

 

<学習参考資料の提供(NPO、景観行政)>

  • 前田の資源マップ、探検ルートマップ
  • 古写真、白地図、モノレール関連資料
  • 浦添市景観まちづくり、歴史文化資料
  • 風景学習実施計画及び調整資料
実施体制
  • 授業計画・実施/前田小学校3年

          (担任/與那のぞみ・島津侑実・儀武美咲)課

  • 事業主体/沖縄県土木建築部都市計画・モノレール課
  • 連携・協力/浦添市都市建設部美らまち推進課

          道路課、上下水道部水道総務課、教育委員会教育部文化財課

  • 企画・進行/NPO沖縄の風景を愛さする会(安里直美)
  • 講師協力/ 前田自治会(石川仁孝・親富祖善信・親富祖政昇)、

          グリーンハイツ自治会(徳村・上地・国仲・我如古・槙田)

学習の流れ

【浦添市学習】 R3/ 5~7月

概要
  • 1学期/社会科:学校を中心に四方位を確認して歩くことで「まちの様子」が違うことや、浦添 市の地形や土地利用、交通の様子などを調べて場所によって市の特色の違いがあることを地図にまとめた。

前田の文化と風景にふれる(12h)【導入】7月中旬

7月総合学習/「風景学習」オリエンテーション

概要
  • 「未来から手紙が来たよ」「2030年、こんなま ちになるといいな」「たんけん・はっけん・ほっとけん~前田のじまんを伝えよう!」と題して、まちが変化していく中で、自分たちの住む前田地域を10年後、どのようなまちにしたいか、自分たちのできることはなにかを考えようと、これから風景学習を始めることを児童に伝える。

【まち歩き1】 ワカリジー探検9/22(3h)

  • 活動記録
  • 活動記録
  • 活動記録
  • 活動記録
  • 活動記録
  • 活動記録
場所
  • 小学校→ジリチン毛→ワカリジー→前田駅→小学校
概要

※コロナ禍での感染防止を徹底するため、学級別に3箇所のポイントガイドで探検を実施。

  • 出発前にまち歩きのねらいとスタッフを確認し様々な立場の人が活動に関わることを捉えさせる。
  • ジリチン毛:自治会長から前田発祥地・拝所、成り立ちの話を聞く。
  • ワカリジー:地域のシンボル・文化財として景観を保全した経緯を市職員から聞く
  • 前田駅:赤瓦屋根やワカリジーへの眺望、まちづくりの工夫、ルールについて市美らまち推進課職員から話を聞く
  • 探検したことを振り返り、各自の「心に残った風景」、気づいたことを記録する
児童の
反応
  • ワカリジーは地域の神さまと聞いて手を合わせる姿があった。
  • ジリチンモウ高台からまちなみやみどりのある場所、海への眺望を確認した。
  • まちを美しくするためにできることはゴミをポイ捨てしない、花を植えるなどの話にうなずいていた。

振り返り(1h)

場所
  • 小学校
概要
  • 探検したことを振り返り、各自の「心に残った風景」、気づいたことを記録する

【まち歩き2】前田の古井戸(水辺)探検 9/28(3h)

  • 活動記録
  • 活動記録
  • 活動記録
  • 活動記録
  • 活動記録
  • 活動記録
場所
  • 小学校→自治会 館周辺→井戸・生活道→前田権現→井の大人川→小湾川→小学校
概要
  • 先生の進行により、学級別にまち歩きをスタートする。(保護者、スタッフが引率支援)
  • 旧集落の古井戸や拝所、小湾川上流を訪ねて、マップで確認し、気づいたことや疑問に感じたことをメモする。なぜ、そこにあるのか、どのように使われていたのか、信仰や伝統と関係、水の流れなど見過ごしていた地域の生活と風景に気づかせる。
児童の 反応
  • 気づいたことを懸命にワークシートに記録していた。
  • 疑問点や感想をメモに書き出しマップにはって、もっと知りたいことを確認した。

振り返り(2h)

場所
  • 小学校
概要
  • 探検したことを振り返り、各自の「心に残った風景」を記録する。※もっと知りたいことをマップに書き込む。

つかむ / 広げる(18h)

【課題設定と調べ学習】10月下旬〜12月(8h)

場所
  • 教室
概要
  • 探検での発見や疑問から 課題別グループを編成し、調べたいことを決める。学年でコースグループごとに集まり、質問事 項を調整する。
児童の
反応
  • 課題解決にむけて、①ワカリジー・ジリチンモウ、②古井戸・拝 所、③前田自治会、④グリーンハイツ自治会、⑤前田駅・まちづくり、⑥小湾川、6つのグループができ、 各々のチームで現地に出かけて調べ学習を熱 心に進めていた。

【インタビュー活動】 11/2(3h)

場所
  • 現地
概要
  • 現地に出かけ、地域の人にインタビューや写真撮影をするなどして活動する。

【中間報告】 11/17 (2h)

場所
  • 教室
概要
  • ロイロノートを活用して 中間報告会で情報を共有しあう。質疑やアドバイスをし合い、調べ学習をさらに進める。

【研究授業】11/29(2h)

場所
  • 教室
概要
  • (事前学習)今昔写真を比較して地域がどう変わったか、大切に残されたものについて考える。
  • 「前田未来会議」と題して、10年後の前田地域にどんなひと、もの、ことがあるといいか、地域の思いやまちの特色から、伝統や将来のまちについて思考させる。
児童の
反応
  • 未来会議では、「自然や歴史がある方が前田らしい」、「残す努力が必要」、「自まんを伝える人がいるといい」「自分たちが大人になって教える」との発言があがっていた。

 

【体験ウィーク】12月上旬(3h)

場所
  • 現地
概要
  • “もう一度行ってみたい、もっと知りたいこと”など、保護者の協力を得て学習計画をたて実施する。各自が実感した「前田じまん」をミニレポートすることで、地域への気づき、思いを深める。

まとめる/ 伝える(15h)

【制作・発表準備活動】2月(10h)

  • 学習概要
場所
  • 教室
概要
  • 調べたり考えたり、活動したことをグループで話し合う。前田じまんとして伝えたいことを整理し、役割分担のもと発表原稿を作成する。
児童の
反応
  • 「前田は自まんのスポットがたくさんあってすごいね」「北海道にも赤瓦はあるのか」「冬は何度になるのか」「こまおか小学校に川や森があってSDGsの14と15番にとりくんでいる、前田は?」など、互いの風土やまちの特色、活動状況について、身を乗り出して質問しあっていた。

【リハーサル】2/17(2h)

  • 学習概要
場所
  • 教室
概要
  • ポスターづくりを通して自らの考えや思いが伝わりやすいように絵や写真で工夫する。

【発表会】2/18(2h)

  • 学習概要
場所
  • オンライン交流会
概要
  • 寒冷地の清湖小学校(石川県)、駒岡小学校(北海道)の3年生にむけて、前田じまんやSDGsの取り組みを伝え、意見交換を行う。

振り返り 2月下旬(1h)

場所
  • 教室
概要
  • これまでの活動を振り返り皆で話しあう、地域の一員として自分にできることは何かを考え、次の活動に活かすことを考える。(※浦添市役所ロビーで学習成果を展示発信)

児童の作品 (一部掲載)

前田地域に残る伝統文化、井戸や拝所、風景、新たなまちなみ等を調べ、まとめる活動を通して、未来のまちにつなげたい「前田じまん」と自分たちができる活動(SDGs)について発信した。

先生の声 (3年1組・與那のぞみ/2組・島津侑実/3組・儀武美咲)

実施にあたり苦労した点

  • 調べ学習を進めるにあたり、グループによって質問内容や聞き取り方に差が出たり、理解が難しかったりする様子が見られた。
  • コロナ禍で授業の期間が空いてしまい、児童のモチベーションを保つことに苦労した。
  • 児童の感染防止の徹底、地域ゲストのポイントガイドによるまち歩きの実施など、コロナ禍での感染防止対策と学習活動の両立に苦労した。

工夫した点

  • 今年度は、まちの未来を想像することから入り「昔から遺ってきたことや、ものと出会い」「現在のまちの様子」を捉え、「前田未来会議」を設定しつなげていきたい前田のじまんや新しいまちづくりについての考えを深め、「地域の一員としてできることは何か」ということに迫っていくようにした。
  • まち歩きは、「ポイントガイドさんの話を聞く」「気になることを地図にメモして探っていく」「解決したい課題がある場所にもう一度行って詳しい方にインタビューする」「お家の人と行ってみたい場所を訪ね前田の良さを実感する」という形で何度も児童が地域に自分の足で出かけ、地域に住む人々、物、自然と関わることを通して、地域の一員としてのあり方を考えていけるようにした。
  • 各教科と関連付けて取り組み国語や社会などで身に着けた力を、最終の発表会のまとめに生かす場を設けるようにした。また、北海道と石川県の3年生に向けて発表を行うことにより、相手意識をもち意欲的に活動を行うようにした。

教師として得られた点

  • 子どもたちと一緒に地域探検に出かけ、実際に目で見てお話を聞き、地域の方とふれあう中で、地域の方々の思いや願いを子どもたちと一緒に考え、知ることができた。
  • 前田地域の歴史、伝統的な行事や文化といった豊かな地域素材を授業としてどのように扱い、どんな視点で考えさせていくか、他教科ともつなげていきながら教材研究することができた。

3年生児童の反応

  • まち歩きの実施において、地域の方々や各機関の皆さんとの出会いから新しい知識やまちづくりへの思いにふれ、「普段何気なく接してきたものに意味があったんだね」「自分にできることはないか」「これからも古いものを守っていきたいな」「たくさんの人に知ってもらいたいな」と自分事として考えようとする姿がみられた。
  • 「前田自まん体験レポート」を通して、モノレールから自分の住むまちを眺めたり、きれいなまちにしたいとゴミ拾いをしたりと積極的に活動することができた。
  • 「前田らしさを残していきたい」「私たちが前田のすごいところを伝えていきたい」「未来の前田もステキなまちであって欲しい」など、より愛着が深まり、地域の一員という自覚が芽生えていた。自分にできることを意識し、前田の未来に関わっていきたいという思いを持つ児童もいた。
  • 北海道と石川県の小学生にどうすれば前田のじまんが伝わるか、試行錯誤し、発表することができ達成感を得ていた。

地域協力者の声

  • 子どもたちや先生がたが、前田の伝統文化に興味を持ち公民館を訪ねてきて質問したりすることが増えた。グリーンハイツの子どもたちも一緒に教えあったりして地域の歴史を学んでいるのがよい。あいさつの声かけや地域をきれいにしようとする素直な子どもが増えた。住民によるまちの維持管理活動につながるとよいし、大事に残すべきものが継承されるまちづくりにつながるといい。風景学習の取り組みはよいと思うので今後も皆が連携協力して活動を継続できるとよいです。
    (前田自治会長・石川仁孝)
  • 今年度は、子どもたちを中心にまち歩きに取り組んでいるように感じました。子どもたちが主体となって考え調べることは、住んでいる地域への愛着を感じ、興味を持つために大切だと思いました。発表会では、新しい取り組みとして石川県や北海道の住む環境が違う子どもたちへ前田の紹介することで、より理解も深くなったのではないかと感じます。これからも子どもたちから様々な人たちへ地域の魅力が伝わることを期待しています。
    (浦添市美まち推進課・松田裕江)

編集後記 / 風景学習担当者の感想

  • 浦添グスク丘陵・ワカリジーの南面に位置する前田地域、ややもすると見過ごしてしまう風景の価値や、モノレールの開通により変化するまちの魅力と課題に気づかせ、未来を志向して誇りと新たなまちづくりにつなげようと、今季で3年目の(県事業)風景学習支援に取り組ませて頂きました。まち歩き前の下見で、3学年以外の先生も多く参加し、前田地域を興味深く探索していたのが大変印象的でした。先生がたの熱意ある指導により、子どもたちが主体的に活発に探究活動に取り組み、「地域に役立ちたい」と成長していく場面は感動的でした。子どもたちの創造力や発信行動が、周囲の大人たちの気づきを促し、住みよいステキな前田の風景まちづくりへとつながりますよう、今後の活動に一層、期待しています。(NPO沖縄の風景を愛さする会・安里直美)